対談企画 札幌弁護士会×北海道NPOサポートセンター

対談企画 札幌弁護士会×北海道NPOサポートセンター

 今年度北海道NPOサポートセンターでは、札幌弁護士会「NPO支援・協働プロジェクトチーム」と連携し、現場の専門家であるNPOと法律の専門家である弁護士が互いに情報共有し、相互に学びあいながら社会変革していく仕組みづくりを目指し、協議を重ねてきました。

2022年7月に共催企画の第一弾として、弁護士とNPOの交流座談会を実施(弁護士11名とNPO法人等7団体参加)、11月には第二弾として、NPOを運営するうえでもっとも悩ましく、トラブルが起こりやすい”雇用”をテーマに、弁護士・NPOが相互に学びあう場を設定しました(弁護士6名とNPO法人等7団体参加)。

2023年2月22日、札幌弁護士会館にて、札幌弁護士会会長であり、「NPO支援・協働プロジェクトチーム」の呼びかけ人である坂口唯彦弁護士と、当法人理事長大原昌明が、今後の弁護士とNPOの連携・協働の在り方、可能性について対談しました。

弁護士は敷居が高い!? 

大原:坂口先生とは昨年の11月の「雇用を考える」というプロジェクトで名刺交換をさせていただきまして、その節はどうもありがとうございました。その「雇用を考える」というのは2回目の企画だったのですけど、「雇用を考える」には、6名の弁護士の方が参加されていましたよね?終わった後に、何か感想は出ていましたか? 

坂口:やはり皆さんご苦労されていらっしゃるなあというのが共通の感想ですね。企業の場合、顧問弁護士がいたり、商工会議所のサポートなどが受けられるのですが、NPOの皆さんは、なかなか普段からの専門的なところのサポートが身近になく、そういった意味でご苦労されているなあという印象はありました。非営利活動であっても、人を雇用する場合のルールは企業と変わらないので、同じような義務とか配慮を求められてしまうんですよね。雇用に関わる様々な法律上のルールを守りながら、活動を継続していかなければなりません。守らなければならない法律上の様々なルールと、充実したNPOとしての活動を両立していくということは本当に大変なことだと思いましたね。

大原:任意団体や、ボランティアレベルで活動している分には、それほど大きな法律的な問題は発生しないかもしれないですけど、やっぱり法人格を取ると、いくら事業小さくても人と対応したりするところで法律的な解決しなければならない問題というのは発生してしまいますよね。私もあのときずっとお話を聞いていて、多分参加した方々も色々問題は抱えつつも、なかなか例えば弁護士会館に来るとか、無料相談を受けるとか、そういうことはなかなか思いつかないというか。

坂口:簡単ではないですよね。

大原:やっぱり敷居が高いですよね。そういった意味では、2回目のプロジェクトは参加した方にとっては、弁護士さんを身近に感じていただき、放置してきた問題にも目を向けるという機会になったと思います。それで、そもそもでお伺いしたいことがあって、、弁護士会として、どうしてNPO支援というか、プロジェクトを立ち上げようという機運が出てきたのですか?

坂口:まさに今のお話ともつながりますが、弁護士や弁護士会は地域の方のため、社会のためにお役に立ちたいということを普段から考えてはいるのですが、弁護士というと、取っつきにくい、相談しにくいというイメージがあるので、市民の方、社会で活動されている方に、自分達から近づいていくためにはどうしたらよいだろうかというのが、一つの課題でした。そのように考える中で、社会へのアプローチの一つの大きな柱としてNPOの方とぜひ関わりを持たせていただきたいと。最初の動機がそういうところからスタートしたのですが、実際にNPOの方に触れてみると本当にやりがいはあるなということをやればやるほど感じるようになりまして。弁護士以上に社会の中にくまなく行き届く形でいろんな活動をされているNPO法人の方、個人の方がたくさんいらっしゃるんだなということを、取り組めば取り組むほどそれを逆に教えていただいたというのが、率直な感想ですね。

多様な専門性のメンバー 

大原:現在のプロジェクトチームメンバーは何人ですか?

坂口:弁護士会の中で、こういう新プロジェクトをやってみたいので、募集しますよという告知をしまして、最初の段階では8名が手を挙げてくれて、今は13名です。弁護士会の委員会は各弁護士に義務的に割り振られるようなところがあるのですけど、このプロジェクトに関しては自発的に弁護士が手を挙げているので、全員がやる気に満ちていると思います。

大原:弁護士さんというと、いろんな専門があるじゃないですか。刑事事件とか民事事件とか。専門はバラバラなんですか?

坂口:そうですね。弁護士側のメンバーは、札幌市長時代にNPOの支援に力を入れておられた上田文雄弁護士を筆頭に、NPOの活動に本人も関わっている弁護士、学生の頃からNPO支援に関わっていた弁護士、これまでは企業の弁護士を中心にやっていたがこれからはNPO支援に力を入れたいと考えている弁護士など、実にバラエティーに富む弁護士がメンバーになっているので、かなり強力な布陣といいますか、様々なニーズにお応えできるのでは、というところはあると思いますね。

大原:これまでに2回企画をやりましたけども、今後も定期的に、例えば3ヶ月に一度というような頻度でいろいろなテーマで弁護士の方々と関わっていければ、それこそ先ほど坂口先生がおっしゃったいろんな活動している方がいらっしゃるので、その都度顔ぶれが変わってくるでしょうし、そうやって常連の人だけじゃなくていろんな方が関わることによって、先ほどおっしゃっていたその敷居が高いっていうイメージを少しでも壊せるようにすることをできれば、すごくいいかなあと思うんですよね。

坂口:札幌弁護士会が昨年度からNPOの活動を知り学ばせていただくことができたのは、サポートセンターさんの存在が本当に大きかったと思います。これからもぜひいい関係を築かせていただきながら様々な取り組みを一緒にご一緒させていただければと思います。

大原:サポートセンターは上田さん(上田文雄弁護士・元市長/当法人初代理事長)が立ち上げた。上田さんイコール弁護士っていうのがあるので、そういった意味では我々側からすると弁護士さんの敷居はそんなに高くないんですけれども、でもやっぱり一般にというとね。

坂口:やはり一般的には弁護士っていうと敷居が高いといえますよね。

大原:前回のイベントで一番感じたのは、NPO側が普段なかなか意識が向かないことについても、ああやって弁護士さんに説明されると、そういうこと大事なんだな!と皆さん気付いたじゃないかなと思うのですよね。だからそういう情報を弁護士会さんとサポートセンターとで定期的に発信していくことができればよいですよね。 坂口:そう思います。NPO活動に携わっていらっしゃる方は問題意識の高い方が多く、弁護士のアドバイスを受け止め、吸収してくださる方が多いというのは強く感じました。

弁護士とNPOの距離を縮める

大原:昨年のちょうど1年ぐらい前に、サポートセンターを訪ねていただいて、それで、今後一緒にやっていこうということで。まずは7月に交流座談会を実施しました。

坂口:このときの座談会では特定のテーマを決めずに、団体さんの様々な課題をご相談いただいたり、こちらからもご説明するという流れでしたね。

大原:一つは団体内部の課題、二つ目が事業活動における課題ですね。この座談会から派生して2回目のイベント「雇用を考える」につながったんですよね?

坂口:雇用はNPOの皆さんが課題とする大きなテーマの一つだと思いますね。

大原:そうですよね。一つはいわゆる法的な雇用の問題、もう一つは賃金、給与の問題ですよね。だからそこのところをNPOはずっと切れないというか、忘れることができない問題で。任意団体のときは、とにかく時間があったら手伝ってというレベルで済んだものがやっぱり法人格を取って人を雇用して活動するようになると、いろんな雇用に関する法的な問題がたくさん出てくるということですね。

坂口:例えば企業であれば、雇用契約を結ぶとか、使用者と労働者でかなり位置づけがしっかりしていて、使用者側も労働者側もそういう意識があるんですけど、NPOの活動の場合、ボランティアの方と労働者の方の境目がなかなか難しいところがあって、法律的には雇用と呼べる状況なのに、労使ともに雇用という意識があまりないまま進んでいって、後にトラブルになってしまうケースがありますね。

大原:そうですよね。うまくいっているときにはいいんだけど、何かがあったときに問題が顕在化するってことですよね。そういう時に、弁護士さんとの繋がりがあれば、ちょっと聞いてみようか、と思えたりするのですが、先ほどもお話された少し敷居が高いっていうのはあって、自由に「ちょっと坂口弁護士にちょっと聞いてみようか」とはいかないんですよ。

坂口:「いつでも相談してください」と弁護士から言われても、実際にはなんとなく相談しづらいというのがありますよね。

大原:僕もしにくい(笑)

坂口:弁護士や弁護士会の側が市民の方々や社会にもっと積極的に近づいていく必要があると思います。NPOで社会のために頑張っていらっしゃる皆さんのためにも、弁護士、弁護士会の側からの積極的なアプローチが必要だと考えています。 大原:プロジェクトチームに13名の方が手を挙げていただいたということで、その13名の弁護士さんと、なるべく我々が距離を短くするっていう。そういうことで、何回か会えば、「この弁護士さんに相談しようかなみたいな。」みたいな気持ちになると思うんですよね。だから何かよくわからない顔もわからない名前もわからない弁護士さんに相談するのはなかなかやっぱりお金のこともちょっと考えたりしますし。ですからそういうときに備えて、北海道NPOサポートセンターと、定期的にですね、弁護士の皆さんにも集まっていただいて、時間を作っていただいて、交流をする。テーマ僕は何でもいいと思うんですけども。そういう形でいろんな方がNPO側からいろんな方が参加してくれれば、スムーズなやり取りができるんじゃないかなと思います。

活動の核の一つ「協働」 

坂口:弁護士会が手がけている委員会活動には、例えば子供の権利を守る活動とか、女性の権利、LGBTのテーマとか、様々なテーマがありまして、その活動自体がNPOの活動と重なるものも多いです。昨年度札幌弁護士会がNPOプロジェクトをスタートしたときはまさに支援させていただくというか、お手伝いさせていただくというイメージがあって、名称も最初はNPO「支援」プロジェクトだったのですが、その後「支援・協働」プロジェクトチームと変えました。なぜ「協働」が入ったのかというと、まさに我々弁護士がサポートするだけではなくて、むしろ共にいろいろな活動をさせていただく、そこには、サポートセンターさんのような組織との協働ということも含んでいると思いますが、ともに手を携えて様々な場面で、様々な活動を進めていければと考え、「協働」を、もう一つの活動の柱に位置づけました。

大原:協働は「横・繋がり」っていうイメージがありますね。今おっしゃったように本当にNPOの活動って、まちづくりや介護だけじゃなくって、子どもの権利擁護の問題もありますし、それから女性の問題もありますし、それぞれの活動分野にもう弁護士さんの活動って全部重なるんですよね。NPOの側が、良かれと思ってやっていることが、実はあんまりよろしくないみたいなところに気づかないということもあります。そういったときに、弁護士さんと一緒に考えることができれば本当に活動がスムーズなんですよね。

大原:ちょっと話は変わるのですが、「プロボノ」っていう言葉ありますよね。例えば弁護士さんが自分の専門知識を社会に還元するというケースで、公益的な目的で使うという。弁護士さんたちっていうのはそういうお金になる仕事と、自分の知識や専門性を社会に還元するっていう、そういう気持ちを持ってる方って結構いらっしゃるのですか?

坂口:そうですね。弁護士は活動分野を自由に選べるので、そういう意味では弁護士が100人いたら100通りのスタイルがあるのですが、お金のためだけじゃなくて、自分はこういう分野で社会貢献をしたいとか、こういう方々を助けたいとか、そういう意識を持っている弁護士は多いと思いますよ。

大原:すごくありがたい。我々からすると先ほども言いましたけども、弁護士イコール上田さんで、我々からすると、そんなに遠い関係にあると思ってなかったんですけど、でも、改めてこれやって連携でいろんなことをやろうっていうことになったときに、そういえば弁護士さんって周りにあんまりいなかったなっていうことをすごく感じて、その意味でもすごく心強いというかありがたいというか。

坂口:サポートセンターさんや実際NPOの活動に関われている方と接するようになって、むしろ弁護士自身が学ばせていただいている部分が本当に多いんですよね。NPOの活動自体を知ることも大切なことですし、どのように市民の方にアプローチされて、どのように社会に溶け込み、どのような形で社会のために活動しているかということを学ばせていただいています。我々弁護士の活動にとってもすごくありがたく・・・

大原:NPOやってる中には偉そうな奴もたくさんいます(笑)

坂口:弁護士の中にも色々な方がいますけれども(笑) この13人の中にはそんな偉そうな人はいないですね(笑)

今後の連携・協働 

大原:今後は先ほども言いましたけども、定期的に何かイベントで交流させていただきたいなと思っているんですが、坂口さんの気持ちとしては今後、我々とどういう方向性で活動していきたいとお考えですか?

坂口:大きくは二つございまして、まずは、法律家として少しでもNPO活動のお役に立ちたい、NPOの活動をされていらっしゃる皆さんからのニーズをお聞きしながらできるだけお役に立ちたいと考えています。交流会の形、相談会の形、個別の相談をいただく形、様々な形があると思いますが、法律分野のプロとして、少しでもお役に立ちたい。もう一つは、協働です。弁護士会が手掛けるいろいろな活動の中で、NPOの活動と実際にリンクする部分があれば、例えば一緒にイベントをさせていただいたりとか、あるいは弁護士会のイベントをご紹介させていただいたりとか、NPOの方の活動について弁護士会側が何かお手伝いをさせていただいたりすることができればと考えています。例えば弁護士会は子どもの権利委員会という委員会があり、子どもの権利を守るために様々な活動をしていますが、例えばその委員会の弁護士が子ども食堂をやっていらっしゃるNPOの方のお話をお聞きすることができたら、その弁護士自身も今後の子どもの権利のための活動するにあたり、得るものが多いのではないかと思います。弁護士会の活動とNPOの活動というのはまさにリンクするところがすごくたくさんあるので、そういったマッチングや連携を積極的にさせていただきたい、というのが二つ目ですね。

大原:そうですね。当センターで毎月発行している『北海道NPO情報』にもコラムを書いていただいていますよね。やっぱりプロの方の活動を知るっていうことと、その弁護士さんがどういうふうに思っているのかっていうことを我々NPO側の人間が知るというのは大事だと思うんですよ。法律用語にしても。僕らが注意すべき知識として蓄積していくと思いますので、ぜひずっと連載していただければと。

坂口:ぜひお読みいただければと思います。

大原:今日はありがとうございました。今後ともよろしくお願いします。

坂口唯彦 坂口法律事務所 代表  2000年弁護士登録(札幌弁護士会)、2021年より札幌弁護士会会長

大原昌明 北海道NPOサポートセンター 理事長 北星学園大学 経済学部 経営情報学科 教授